
社章とは、企業や団体が社員や関係者に配布する徽章であり、ブランドや一体感を象徴する重要なアイテムです。そのデザイン性や品質にこだわることで、外部への印象だけでなく、社内のモチベーションにも影響を与えることがあります。
しかし社章の価格は、製法、数量、仕上げ方法、オプションなどの要素によって大きく変動します。特に初めて発注する担当者にとっては、「一体いくらかかるのか」「何にどれだけの費用が含まれているのか」が見えにくく、不安に感じやすいポイントです。
本記事では、そうした価格に関する不透明さを解消し、適切なコスト感を持った上で発注判断ができるように、社章の価格相場と費用構成を体系的に解説します。さらに、小ロットや追加発注時の費用についても触れ、無駄のない発注につなげるための情報を網羅しています。
なお、社章についての全体像については、以下の完全ガイドで網羅的に解説しています。まずはこちらからご覧いただくと、より理解が深まります。
→ 社章とは?意味・マナー・付け方・紛失対応・作成方法まで完全ガイド
この記事でわかること
- 社章製作の価格相場と費用の決まり方
- 数量や製法ごとの概算価格の目安
- 1個だけ発注したい場合の考え方と注意点
- 見積書の見方と項目の意味
- 追加発注時にかかるコストと注意点

この記事の監修・執筆は誉花編集部
本記事は、徽章・表彰分野で10年以上の実務経験をもち、経営・企画・マーケティング・AIを活用した業務効率化、社内イベント運用の経験をしている誉花編集部が監修・執筆しています。
価格は7つの要因で決まります
社章の価格は、複数の要因が複雑に絡み合うことで決定されます。まず結論として、価格を左右する主要な要因を7つに整理し、それぞれの役割と相互関係を俯瞰しておくことで、後続の情報理解が格段にスムーズになります。
- 数量
→ ロット数が多いほど1個あたりの単価が下がる「スケールメリット」が働きます。 - サイズ
→ 寸法が大きくなると、材料費や加工工程が増加し、コストが上昇します。 - 製法
→ プレス・鋳造・七宝・UVプリントなど、使用する製法によってコストと品質に大きな違いが生まれます。 - 材質
→ 真鍮・亜鉛合金・ステンレス・アルミ・純銀など、素材の違いにより原材料費と加工性が異なります。 - 仕上げ(メッキ・塗装など)
→ 金メッキ・銀メッキ・黒ニッケル・カラーエポなど、仕上げ方法によって外観と耐久性が変わり、コストに反映されます。 - 留め具
→ タイタック・マグネット・ネジ式など、種類によって加工方法とコストが異なります。 - 納期
→ 通常納期(約3〜4週間)に対し、短納期対応は工程調整費や人件費増で割高になります。
【こんな場合はこの要素を重視!】
納期 → 式典や周年記念など「いつまでに必要か」が決まっている場合は、最初に納期を基準に逆算しましょう。短納期では対応可能な製法が限られます。
条件別の概算レンジと“幅”の理由
社章の価格は、「製法 × 数量」の組み合わせによって大きく変動します。用途や希望納期、ロゴの再現性などに応じて、最適な仕様を選ぶことが実務上の判断材料となります。以下では、一般的な製法と数量ごとの組み合わせに基づく、目安となる価格レンジを示します。
数量 | 製法 | 目安単価(税抜) | 特徴 | 推奨用途 |
---|---|---|---|---|
10個 | プリント+エポ | ¥2,000〜¥3,600 | 小ロット・多色対応、安価試作向け | 試作、小規模配布 |
50個 | スタンプ | ¥800〜¥1,800 | 金属感とエッジ表現、標準仕様 | 社員配布、通常用途 |
100個 | ダイキャスト | ¥1,300〜¥2,000 | 厚み・立体感があり高級感を演出 | ロゴ重視の公式使用 |
100個 | 七宝 | ¥1,400〜¥2,000 | 艶と発色があり、長期耐久性も高い | 式典、役員・管理職用 |
※本表は、業界で流通している一般的な相場に基づく参考値です。
この表は、発注前に大まかなコスト感をつかむための目安です。ただし、ロゴの複雑さ・色数・メッキの種類・納期条件などによって実際の見積額には幅が出るため、「静的な参考値」としてご参照ください。
補足:1個だけ発注する場合の注意点
社章の製作は、通常10個以上のロットを前提としています。製造工程には金型・治具の準備、加工条件の設定などが必要で、これらの初期コストは1個であっても発生します。そのため、1個だけ製作する場合も、10個分相当の費用が発生すると考えるのが現実的です。
実務では、入社・昇進・役員交代などのタイミングに備えて、初回製作時に10個〜20個程度をあらかじめ製作し、社内保管しておく運用が一般的です。「1個から注文可能」と案内されていても、実際にはこのような保管在庫からの払い出しである場合が多く、製造単価としては1個=10個分程度と見なすべきです。
「同じ50個」でもここまで違う:価格の“幅”が生じる実例
同じ数量・同じ製法で社章を発注しても、仕様の違いによって1個あたりの単価に大きな差が生じることがあります。これは、ロゴの再現難易度、仕上げの種類、留め具の仕様、納期対応の有無など、複数の要因が価格に影響を与えるためです。
以下は、「50個・プレス製法(スタンプ)」という条件における、仕様差による価格の想定例です。
パターン | 想定価格(税抜) | 主な違い |
---|---|---|
A仕様 | ¥900 | 単純なロゴ/金メッキ/タイタック留具(標準構成) |
B仕様 | ¥1,700 | 線の細かいロゴ/黒ニッケル仕上げ/マグネット式留具 |
このように、同じロットでも1個あたり約2倍の価格差が生まれることがあります。以下のような要素が、価格に大きく影響します。
- ロゴの細密度:線が細い、階調表現があるなど再現が難しいロゴは、製版や仕上げ工程が増加しやすい
- 仕上げの種類:黒ニッケル、ロジウム、銀イブシ、七宝などは工程や材料費が高くなる
- 留め具の仕様:マグネット式やネジ式などの特殊パーツは加工費が上乗せされる
- 個装・包装形式:PP袋、専用台紙、化粧箱など、包装仕様により梱包コストが発生する
- 納期の条件:短納期対応では工場のスケジュール優先調整、人件費増加などの費用が加算される
このような「価格の幅」が出る背景を理解しておくことで、見積金額の妥当性を正しく判断できるようになります。価格の比較は、単純な総額ではなく、構成要素との照合が極めて重要です。
正確見積に必要な情報(チェックリスト)
社章製作において正確な見積もりを得るためには、発注側が適切な情報を初期段階で提示することが極めて重要です。情報が不十分だと、想定と異なる仕様で見積もりが出されたり、やり取りの往復が増え、結果として納期もコストも悪化する原因となります。
ここでは、社章の見積取得時に必要となる代表的な項目を体系的なチェックリストとして整理します。また、プロの発注担当者が実践する「賢い使い方」も併せて解説します。
見積に必要な情報チェックリスト
項目 | 内容 |
---|---|
ロゴデータ | カラー情報(色数、特色の有無)、線の太さ、解像度、できればAI/PDF/SVGなどのベクターデータが望ましい。 |
製法・材質・仕上げ | 希望する製法(例:スタンプ・七宝など)、材質(例:真鍮・亜鉛合金)、仕上げ(例:金メッキ・黒ニッケル・エポ) |
留め具の種類 | タイタック/バタフライクラッチ/マグネット/ネジ式など、装着対象(スーツ、帽子、制服など)によって最適な選択が異なります。 |
想定数量 | 初回ロットの数量、および将来的な追加発注の有無とその見込み数量。 |
納期要望 | 希望納品日、または使用予定日(式典など)。逆算のために必要です。 |
校正の希望 | 校正希望の有無、回数、現物サンプル or 写真確認などの方法。 |
梱包・個装指定 | 台紙付き個装、PP袋入り、専用箱入りなど、配布方法に応じた包装形式。 |
【プロはこう使う!チェックリスト活用術】
チェックリストは提出用の資料としてだけでなく、調達交渉・比較検討の場面でも大きな武器になります。以下に、実務者がよく活用する方法をご紹介します。
■ 相見積もり編:比較可能な条件で依頼せよ
このリストをそのままコピーし、複数の制作会社に送付すれば、各社から同一条件での見積もりが揃い、価格と対応の比較が容易になります。条件の不一致による誤解も防げます。
■ 仕様未定編:「未定」とは書かず、相談スタイルで投げよ
全項目を無理に確定させる必要はありません。仕様が不明な場合でも「用途:◯◯を想定。最適な製法を提案してほしい」など、対話の余地を残す形で伝える方が、プロの提案力を引き出せます。
【補足】見積もりの「提示形式」には違いがある
制作会社によって、見積書の提示形式に違いがあります。以下のようなパターンが存在します:
- 数量ごとの見積り:50個、100個、200個など、数量ごとの段階式で金額提示
- 仕様別の積み上げ方式:ベース価格に仕上げ・個装・校正費などを加算
この形式の違いに戸惑う方も多いですが、いずれも仕入れ元のコスト構造はほぼ同じです。金額の見せ方が異なるだけで、総額や内容に大きな差は出ません。重要なのは、各項目の内訳と構成を把握し、「なぜその価格になっているか」を読解できる目を持つことです。
よくある質問:FAQ
Q1:相場より高い見積の理由は何ですか?
A:同じ製法・数量であっても、以下のような条件によって見積価格は変動します。
・ロゴが非常に細かく、特別な製法や手作業対応が必要な場合
・メッキや塗装など、特殊な仕上げ工程を要する場合
・留め具や梱包仕様が標準外で、カスタム対応が発生している場合
・校正回数が多い、写真確認が必要など、工程数が増加している場合
・製造工程において、人件費の高い国・熟練工による作業が発生している場合
また、高級仕様かつ短納期での依頼は、工場側が受注を敬遠するため、インセンティブ交渉や特別ルート(例:航空便)が必要となることがあり、これも価格に反映されます。
Q2:納期を短縮すると、どのくらい価格が変わりますか?
A:通常納期(3〜4週間)に対して、10営業日以下などの短納期をご希望の場合は、以下のような追加コストが加算されるケースがあります。
工場の優先枠を確保するための特急料金(+10〜30%)
通常の海上輸送から航空便・個別配送への変更
社内のスケジュールを前倒しするための人員調整コスト
繁忙期(12月〜4月)は特に短納期対応が難しく、工場側が受注自体を制限する場合もあるため、早めの相談が重要です。
Q3:試作だけの発注は可能ですか?
A:一般的に多くの製作会社で、試作のみの依頼も可能です。目的や予算に応じて以下の対応が選択されることが多いです。
・プリント+エポ製法による簡易試作(安価・短納期)
・本番と同じ製法での1点製作(仕上がり確認に有効)
・仮型による検証試作
試作後に本製造へ進まれる場合、初期費用の一部を本製造費に充当できるプランを設けている企業も存在します。
Q4:どの会社に見積もっても、価格が似ているのはなぜ?
A:国内の社章製作会社の多くは、同一または近似の工場ネットワーク(国内外)から仕入れを行っています。そのため、原価構造や品質基準に大きな差はなく、見積金額も大きく乖離しない傾向にあります。
ただし、見積の「見せ方」には違いがあり。
・数量別で段階提示する企業(例:50個・100個・200個)
・製法や仕上げごとに積算表示する企業(仕様別)
など、理解しやすさ・比較しやすさの観点で差異が出る場合があります。内訳の透明性やレスポンスの早さも、発注先選定の重要な判断基準になります。
Q5: 発注時に失敗しないための注意点はありますか?
A:社章制作でよくある失敗の多くは、仕様のすれ違いや繁忙期による工程ミスに起因します。以下の点に留意するとトラブルを回避できます。
・使用目的・納期・数量・ロゴ詳細などを事前に明確化
・製法や素材が不明な場合は、用途に合わせて提案を受ける
・繁忙期(12月〜4月)を避けると、余裕を持った品質管理が可能
・複雑な仕様は写真での校正確認やサンプル製作を推奨
歴史の長い業者が多く、重大なトラブルは稀ですが、やり取りの複雑化による伝達ミスには注意が必要です。
まとめ
社章の価格は、「数量・サイズ・製法・材質・仕上げ・留め具・納期」の7つの要因が相互に影響し合うことで決定されます。そのため、明確な相場が存在しにくく、選ぶ条件や目的に応じて“幅のある価格帯”が生まれるのが特徴です。
本記事では、その価格構造の全体像を俯瞰できるように要因を整理し、代表的な条件ごとの概算価格レンジとその理由を具体的に解説しました。また、見積精度を高めるための情報チェックリストや、実際に寄せられるよくある質問(FAQ)も掲載し、初めて社章を発注する担当者でも安心して比較・検討できる構成としています。
さらに、価格に対する納得感を高める視点として、次のような観点も共有しました:
- 同じ数量・同じ製法でも、ロゴの再現性や仕上げ指定によって価格差が出る
- 見積の見せ方や構成は、製作会社によって異なる(数量別/仕様別など)
- 各社の仕入れ背景は似通っており、透明性やサポート体制が選定基準になる
- 繁忙期(12月〜4月)を避け、余裕のあるスケジュールが品質確保に繋がる
本記事で紹介した内容は、情報メディアとしての立場から、特定の会社や製法に偏らず、社章制作を比較検討するための中立的な判断材料を提供することを目的としています。
本記事でわかること
- 社章価格が7つの主要因で構成されている理由とその内訳
- 条件別に整理された価格レンジと“幅”の背景
- 正確な見積取得に必要な情報項目とその活用方法
- 見積・発注時によくある疑問と失敗回避のポイント
- 納得感を持って価格判断するための視点と比較軸
ご自身の組織の目的や納期に合わせて、適切な仕様・製法・製作会社を検討いただく際の判断材料として、ぜひ本記事をお役立てください。今後、より詳細な条件から簡易的に価格レンジが確認できる概算シミュレーターの提供も予定しております(実装完了後に別途告知いたします)。