
本記事のゲスト:株式会社Morgen Lethe(モルゲンレーテ)代表取締役 渡辺 響一 様
URL:https://morgenlethe.com
創業間もない企業にとって、「ブランドをどう築くか」という問いは避けて通れません。しかし現場では、採用、案件対応、組織運営といった日々の意思決定が優先され、ブランディングや文化づくりは“後回し”にされがちです。
その一方で、実際にはその一つひとつの判断こそが、 企業の姿勢や信頼をかたちづくる起点になっています。株式会社Morgen Letheの代表・渡辺響一氏も、まさにその道を歩んできた経営者の一人です。
創業初期は、ITコンサルティングとプロジェクトマネジメント支援を中心に、事業の安定と採用体制の構築に全力を注いできました。その過程で自然に形成されていった理念や文化が、同社のブランドの原型となっています。
本インタビューでは、誉花との共創パートナーとしてプロジェクトに参加する渡辺氏に、創業初期の意思決定、採用戦略、ブランド形成の考え方を伺いました。その言葉の背景には、実務と哲学が交差するリアルな経営の現場があります。

監修:誉花
誉花は、「{しるし × ものづくり} × {アカデミック × マーケティング}=価値あるしるし」をコンセプトに活動しています。社章やトロフィー、表彰制度が持つ本質的な価値を科学的かつ実務的な視点から探求・整理し、再現性の可能性がある知見として発信しています。私たちは、現場での経験と調査・理論を掛け合わせ、人と組織の中に眠る「誉れ」が花開くための情報を提供しています。
序章:ブランドは“後づけ”からでも始められる

――創業当初はどのような事業からスタートされたのでしょうか。
「最初は一人で始めました。主な事業はITコンサルティングとPM(プロジェクトマネジメント)支援でした。当時は“ブランディング”という言葉を特別意識していたわけではなく、とにかく事業を形にし、顧客に価値を届けることに集中していました。」
――いわゆる“ブランド構築”を意識する以前の段階ですね。
「はい。けれども、振り返ってみると、日々の意思決定そのものがブランドを形づくっていたのだと思います。誰と仕事をするか、どんな案件を受けるか、どんな言葉で語るか。その一つひとつが積み重なって、会社の姿勢やトーンをつくっていった。結果的に、それが“後づけのブランディング”になっていた感覚です。」
――非常に示唆に富んだ考え方です。“後づけブランディング”という視点は興味深いですね。
「ブランディングというのは、最初から完璧に設計するものではないと思っています。特に創業初期は、経営者が現場で下す無数の意思決定がすべてブランドをつくる。つまり、ブランドは“行動の積み重ね”から立ち上がるもので、それを後から言語化して整理することが“後づけブランディング”の本質だと感じています。」
――その考え方は、これから起業を目指す人にも大きな励みになりますね。
「そうだと思います。最初から“ブランドを作らなければ”と力むよりも、自分の判断や行動の一貫性を大切にするほうが自然です。結果的に、それが最もリアルで信頼されるブランドになる。そういう意味では、“後づけ”は決して遅れではなく、むしろ正しい順序なんです。」
起業初期の意思決定とリソース配
――創業直後、最も意識を向けていた経営課題は何だったのでしょうか。
「採用です。当時の事業は、ITコンサルティングやプロジェクトマネジメント支援を中心とした形態でした。業務の性質上、人が増えなければ売上も増やせない。つまり“採用が事業拡大のボトルネック”になっていたので、そこに最も時間と労力を割いていました。」
――採用を最優先に据えた理由は、その構造的な要請にあったのですね。
「そうですね。一人で始めた法人だったので、採用を進めない限り、事業のスケールも信用の厚みもつくれません。限られたリソースの中で、何に集中すべきかを考えたとき、採用が最も優先順位が高いと判断しました。」
――ブランディングやインナーブランディングは、当時どのような位置づけでしたか。
「正直、当初はほとんど意識していませんでした。ただ、それを“怠り”ではなく“必然”として受け止めていました。創業初期は、売上と採用という“生存条件”を整える時期。ブランドや文化づくりは、土台ができてからこそ意味を持つ。順番として、まず“人”と“案件”があってこそだと思っています。」
――経営の優先順位は、フェーズによって変わっていくということですね。
「まさにその通りです。創業期に全てを完璧にやろうとするのは、かえって不自然です。その時点での最適解を選び続けることが、結果的にブランドの軸をつくる。ブランディングを後回しにしたことも、当時の経営状況に照らせば合理的な判断でした。」
――起業家にとって、“ブランディング未着手”は恥ではなく戦略的な選択だというわけですね。
「はい。ブランドは“結果として積み上がるもの”であって、“最初に掲げる旗”ではない。現場での意思決定が蓄積すれば、それ自体がブランドの原型になります。焦らず、事業と人を軸に動いたことで、今につながる経験値が得られたと感じています。」
ブランドアイデンティティの原型づく
――企業理念やミッション、バリューはどのように決めていかれたのでしょうか。
「外部の会社にも入ってもらいながら策定しました。まずは、自分の頭の中にあるキーワードをひたすら紙に書き出していったんです。そこから優先順位を決めて、優先度の高いものを自然な文言に整えていく。最終的には、事業内容との整合性が取れるように調整しました。」
――ミッションやビジョン、バリューの位置づけにも明確な区分を設けていたそうですね。
「そうですね。ミッションは社外向け、ビジョンは内部向けというように分けていました。外に伝える言葉と、内側に浸透させる言葉は、やはり目的が違うと思ったので。」
――その中で、最も時間をかけたのはどの部分でしたか。
「バリューですね。項目が多くて整理が大変でした。最終的には、頭文字をとって“Morgen Lethe”の“MORGEN”になるように工夫しました。」
――策定にあたって、参考にした企業や人物はいましたか。
「明確にひとつ挙げることはできませんが、世界的な有名企業のMVVは一通り調べました。その中でも、スペースXが“人類を多惑星種にすること”を使命として掲げているのは、すごくかっこいいと思いましたね。シンプルで、壮大で、しかも事業内容とちゃんとマッチしている。ああいう形が理想だと思いました。
――外部の支援を受けながらも、最後はご自身の中にある言葉を整理していく作業だったのですね。
「はい。理念を作るというより、自分の考えを構造化していく感覚でした。頭の中を言語化していくことで、会社としての方向性が少しずつ明確になっていったと思います。」
採用戦略のリアリティと学び

――創業期の採用は、どのような体制からスタートされたのでしょうか。
「初年度は10人を採用したいと考えていました。今思えば絵に描いた餅でしたけど、当時は本気でそう思っていたんです。難易度やコストを正しく見積もれていなかったですね。想定していた職種は、営業が1名で、あとは現場に入るコンサルタントが中心でした。」
――営業とコンサルタント、それぞれに求めていた人物像を教えてください。
「営業は、業界経験者が理想でした。パートナー企業とのコネクションを持っている人であれば、採用後の案件拡大にもつながります。社内外の関係者と接点を持つ機会も多いので、人当たりが良くて明るい人がいいと思っていました。」
「コンサルタントは、とにかく経験者であることが最優先です。人柄については、いろんなタイプがいてもいいと思っていましたが、社内イベントなどに積極的に参加してくれる人が全体の2〜3割は欲しいと考えていました。あとは、人格的に大きな問題がないことですね。」
――スキル以外で、特に重視していた資質や価値観はありましたか。
「スキルが最優先ではありますが、自分なりのキャリアビジョンや価値観を持っていて、それを言語化できる人がいいと思っていました。その人が何を優先しているのかが把握できないと、こちらとしてもどんな切り口で話をすればいいのかわからないので。」
――今振り返って、理想の初期メンバー像は変わりましたか。
「特に変わっていません。しいて言うなら、理想像に合わない人を見送る覚悟をもっと強く持つべきだったと思います。」
――採用の過程で、特に難しかった点はどこにありましたか。
「スカウトの送信ですね。そもそも面談を取り付けられる人数が少なく、想像していたよりもずっと反応がありませんでした。返信率は体感で1/1000くらい。応募が来てもスキルアンマッチなケースが多く、想像以上に厳しかったです。」
――採用チャネルでは、どの媒体や方法が効果的でしたか。
「実績が少ないので比較は難しいですが、LinkedIn経由で1人採用できました。ほかにもAMBI経由で入社直前までいった方もいましたが、結果的に見送りになりました。総じてどの方法でも難しかった、というのが率直な印象です。」
――採用活動を“経営課題”として意識したのは、どのタイミングでしたか。
「最初の2〜3ヶ月ですね。スカウトの返信率があまりにも低くて、最初はショックでした。これだけ母数を打っても返ってこないのか、という現実に直面して、採用は“営業と同じくらい経営の根幹に関わる仕事”だと痛感しました。」
――面接や選考の仕組みで、改善されたことはありますか。
「ほしい人材を数種類に分けて、そのいずれかに該当するかを見極めるための質問表を作りました。職種だけでなく、パーソナリティのタイプでも分類しています。面談の中でその質問票を埋めながら、どのパターンに当てはまるのかを確認していくんです。いずれかに該当して、かつスキル要件を満たす人だけを採用対象とするようにしています。」
――質問表を活用しながら、カルチャーフィットも見極めているのですね。
「そうですね。最後はフィーリングもあります。実際に会ってみて、会話していて違和感や嫌悪感がないかを確認します。基本的には、カルチャーを一緒につくりたいという意識を持った人を歓迎しています。」
――採用活動の中で、特に印象に残っている成果や工夫はありますか。
「LinkedInで採用につながったことが印象的でした。ほかのチャネルでもいくつか良い出会いがありましたが、採用ではやはり“タイミングと相性”が重要だと実感しています。」
――採用を進める中で、経営課題としての意識はどのように変化しましたか。
「採用は単なる人事業務ではなく、経営そのものだと感じました。組織をどう拡張していくか、その中心に採用があります。だからこそ、候補者との対話の中で、当社の方向性を明確に伝えることを意識するようになりました。」
――面接の設計面では、どのような工夫をされていますか。
「求める人材像を複数パターンに分けて、そのどれに近いかを判断できる質問票を作っています。面談の中でそのシートを活用しながら、スキルや考え方の整合性を見ています。また、最終的には実際に会って話すことを重視しています。言葉だけでなく、会話のテンポや感覚の相性など、フィーリングの部分も含めて判断します。」
――カルチャーフィットの観点では、どんな方を歓迎されますか。
「会社のカルチャーを一緒につくっていきたいという意識を持っている方です。
まだ若い組織なので、“合わせる”よりも“一緒に育てていく”というマインドを大切にしています。」
面接設計とカルチャーフィットの見極め
――面接の設計や判断基準について、どのように考えていらっしゃいますか。
「これまでの経験を通じて、面接ではスキルだけでなく“考え方の整合性”を重視するようになりました。踏み込んだ質問を行うことで、その人の準備力や論理性、再現性が見えてくるんです。たとえば、アピールポイントとそれを裏づけるエピソードがどれだけ自然に結びついているか。その一貫性を確認することが、現場で成果を出せるかどうかの判断材料になります。」
――単なるスキルチェックではなく、思考や姿勢の深部を見るということですね。
「はい。面接は“お互いを評価し合う場”だと考えています。候補者が自社にフィットするかを見極める場であると同時に、こちらも相手に評価されているという意識を持つことが大切です。だからこそ、形式的な質疑応答ではなく、相互理解のための対話にしたいと思っています。」
――採用プロセスを可視化する工夫も取り入れられていますね。
「求める人材像をいくつかのタイプに分け、それぞれに合致するかを見極める質問票を用意しています。職種だけでなく、パーソナリティの傾向も含めて整理しておくことで、評価のばらつきを防げます。面談ではその質問票を使いながら、思考パターンや価値観の傾向を把握するようにしています。」
――最終的な判断では、どのような要素を重視されますか。
「入社後に一緒に働くイメージができるか、日常の意思疎通が円滑に進みそうかも重視しています。」
――経営者として、採用を通じて学ばれたことはありますか。
「採用で一番大切なのは、経営者自身の“評価眼”を磨くことだと思います。外部に委ねる前に、まず自分がどういう人と働きたいのかを明確にする。それができていれば、採用はもっとシンプルになります。結局のところ、経営者自身が面接で何を見極めるか――そこが最も費用対効果の高い投資なんです。」
インナーブランディングへの備え

――社員が増えるこれからのフェーズに向けて、どのような社内文化を描いていますか。
「今のうちから“どういう関係性をつくりたいか”は考えています。月に一度の懇親会や、四半期ごとの全社集会はやりたいと思っていますね。形式ばらず、カジュアルな雰囲気で情報を共有できる場にしたいです。」
――イベントを設ける目的はどのようなところにありますか。
「社員同士の交流や帰属意識の醸成が主な目的です。それに加えて、リファラル採用のきっかけにもなればと考えています。会社の状況を共有したり、日頃のコミュニケーションを積み重ねたりすることが、組織の一体感を自然に育てると思っています。」
――社内イベントを実施する際の理想的な雰囲気や頻度については、どのようにお考えですか。
「頻度は月1回、または四半期に1回程度。雰囲気はあくまでカジュアルで、誰でも気軽に参加できる場がいいと思います。参加者の層も特に限定せず、いろんなタイプの人が交わることで、文化の多様性が生まれるのが理想です。」
――表彰制度などの導入については、どのようにお考えですか。
「評価制度を整えたうえで導入したいと考えています。評価との整合が取れていないと、制度としての納得感が薄れると思うので。会社としての仕組みが整った段階で、自然な形で導入するのが良いと思っています。」
――“制度よりも文化”というお考えが伝わってきます。
「そうですね。文化は設計して作るものというより、行動の積み重ねで育っていくものだと思います。イベントや表彰もその一部として機能していけばいい。日々の言葉や態度の積み重ねが、やがて会社らしさになっていく――そんなイメージを持っています。」
創業フェーズの失敗から得た知見
――創業期を振り返って、特に印象に残っている学びはありますか。
「採用に対するリソース配分の見積もりが甘かったと感じています。当時は健全経営を意識しすぎて、攻めるべき場面でも慎重になりすぎていました。結果的に、“どこにどれだけ投資するか”という意思決定の重みを痛感しました。」
――その経験が、経営判断にどのような影響を与えましたか。
「採用は経営そのものだと考えるようになりました。人が増えなければ事業は拡大しない。つまり、採用は単なる人事ではなく、企業の成長を決定づける経営課題なんです。だからこそ、“どこまで本気で取り組むか”という覚悟が結果を左右すると思います。」
――採用判断の際に、意識しているポイントはありますか。
「懸念点がひとつでもあるなら、立ち止まることです。創業初期は、入社を検討してくれるだけでも嬉しくなってしまうものですが、そこを冷静に見極めるのが経営者の役割だと思います。候補者や事業との相性を、感情ではなく確率的に判断するようにしています。」
――“感情ではなく確率論で判断する”という言葉が印象的です。
「はい。経営は最終的に確率の積み上げだと思っています。勢いや雰囲気で意思決定をしてもうまくいかない。確率を意識し、再現性を持たせることで、結果的にチームもブランドも安定します。」
――経験を経て、判断基準がより構造的になっていったのですね。
「そうですね。起業当初よりも、“構造で考える”姿勢を意識するようになりました。感情に流されず、再現性を持って判断すること。それが結果的にブランド形成にもつながると考えています。」
今後のブランド形成と採用戦略
――これからのブランド形成や採用活動について、どのような方向性を描いていますか。
「今後は、外への発信を強化していきたいと考えています。特にSNSやオウンドメディアなど、代表自身が発信者となることで、採用や顧客開拓の両面に良い影響をもたらせると思っています。まだ規模の小さい組織だからこそ、“誰がどんな想いで動いているか”を見せることが大切だと感じます。」
――ブランドを構築していくうえで、どのような点を重視されていますか。
「トーンやデザインの統一感よりも、“信頼される語り口”を意識しています。
外に向けて発信する際、形式よりも一貫した誠実さや透明性が求められると思うんです。どんな内容であっても、“この会社は嘘をつかない”と感じてもらえることが、結果的にブランドの一貫性につながるのではないかと考えています。」
――今後、採用のターゲット像はどのように変化していきそうですか。
「業態変更を予定しているので、それに伴って採用ターゲットも変わる見込みです。これまでの経験を踏まえて、自立して動ける人材を求めたいと思っています。一方で、カルチャー面では“共につくる”姿勢を持つ人を引き続き重視したいです。」
――ブランドや採用を進化させていくうえで、大切にしている考え方はありますか。
「ブランドは完成形ではなく、発信と修正の反復プロセスだと思っています。発信してみて初めて気づくことも多いですし、その都度アップデートしていく姿勢こそが、信頼されるブランドの条件だと感じています。採用も同じで、理想を固定するよりも、状況に応じて最適化していくことが大切です。」
――外への発信が、同時に内側の文化形成にもつながっていくフェーズですね。
「そうですね。外への発信を通じて、自分たちが何を大切にしているかをあらためて言語化する。それが結果的に、社内文化や価値観の共有にもつながっていくと思います。」
次世代リーダーへの期待とブランドの継承

――将来的に、どのようなリーダー像を求めていきたいと考えていますか。
「一言でいえば、“危機を自分ごととして捉えられる人”ですね。問題が起きたときに、誰かの責任にするのではなく、自分がその状況をどう動かせるかを考えられる人。そういう人こそ、組織の成長を支えるリーダーになると思っています。」
――スキルよりも“姿勢”というお考えが伝わってきます。
「はい。スキルや経験は後からでも身につけられます。でも、姿勢や当事者意識は一朝一夕では変えられません。リーダーシップというのは、肩書きではなく“構え”だと思っています。どんな状況でも自分の言葉で語り、責任を引き受けられる人が、結果的にブランドの顔になっていくのだと思います。」
――ブランドを次の世代へ継承していくうえで、大切にしている考え方はありますか。
「ブランドは理念ではなく、人の姿勢から生まれるものだと考えています。だからこそ、“理念を守る”ことよりも、“理念を更新し続ける文化”のほうが大事だと思っています。固定化してしまうと、時代の変化に対応できません。むしろ、理念を再解釈しながら継承していくことが、ブランドを生きたものにすると思います。」
――サクセッション(継承)という言葉の意味を、あらためて定義し直しているように感じます。
「そうですね。私は“理念の保存”ではなく、“精神の継承”が大切だと考えています。形を守るのではなく、根底にある考え方や姿勢を次の世代につないでいく。それができれば、ブランドは自然と引き継がれていくはずです。」
――ブランドを“人のあり方”として捉えるその視点、非常に印象的です。
「最終的には、ブランドも組織も“人”なんですよね。どれだけ理念を整えても、それを体現するのは人です。だからこそ、次の世代に残したいのは、理念ではなく“姿勢”。そこにブランドの本質があると思っています。」
終章:ピボットできる勇気こそブランド
――事業の方向転換、いわゆる“ピボット”について、どのように捉えていらっしゃいますか。
「私は、ブランドとは“変えないこと”ではなく、“変われる決断力”だと思っています。経営を続けていく中で、環境や市場は必ず変化します。それに気づきながら、あえて方向を変えるというのは、とても勇気のいることですが、その判断こそが経営者の覚悟を最もよく表していると感じます。」
――変化することが、むしろブランドを強くするという考え方ですね。
「そうですね。ブランドというのは“継続の結果”ではなく、“意思決定の積み重ね”だと思っています。続けることが目的化してしまうと、変化に鈍感になってしまう。一方で、誠実に、そして熱量を持って変わり続けることこそが、ブランドの信頼を長く保つ唯一の方法だと思っています。」
――経営判断における「誠実さ」とは、どのような意味でしょうか。
「誠実さとは、“今の自分たちが本当に信じられる選択をすること”です。外からどう見えるかよりも、自分たちの中で納得できるか。それを軸に意思決定をすれば、結果的にブランドはぶれません。変わること自体が悪いのではなく、“なぜ変わるのか”を自分の言葉で説明できるかが大事なんです。」
――最後に、経営者として大切にしている信念をお聞かせください。
「“続ける勇気”よりも、“変える覚悟”を持つことです。市場が変わり、人が変わり、自分自身も変わる。その中で、変化を恐れずに一歩踏み出せるかどうか。そこに、ブランドの本質があると思っています。」