
表彰式は多くの場合、会社全体のイベント(キックオフ、周年行事、納会など)の一部として実施されます。この記事ではその前提を踏まえつつ、表彰式の準備部分だけに焦点を当てて解説します。
初めて表彰式を担当するときは、どこから手をつければよいか迷いやすいものです。やみくもに準備を始めると後戻りが増えるため、効率的に進めるには順番を意識した計画が欠かせません。
本記事では必要な情報に絞り、実務で役立つチェックポイントを整理しました。会場や招待案内、資料づくり、リハーサルの流れなど、担当者が押さえておくべき要点を順序立てて解説しています。
ただし、ここで紹介する方法はあくまで一例であり、すべての組織にそのまま当てはまるわけではありません。会社の文化や規模、目的に応じて調整し、小さく試しながら自社に合った形を模索していくことが確実な進め方です。この記事は「たたき台」として参考にしながら、自社の状況に合わせてカスタマイズしていただくことを想定しています。
この記事でわかること
- 表彰式の準備を進めるときの「やる順番」
- 会場や招待案内を評価・作成するための具体的な基準
- 必要最低限の資料づくりと専門用語(例:キュー=合図)の意味
- リハーサルの進め方と当日のトラブル回避ポイント
- 準備工程を俯瞰できる簡易チェックリスト(WBS対応)
これらを理解することで、初めて担当する方でも自信を持って準備を進められるようになります。
本記事でご紹介する内容はあくまで一例であり、必ずしもすべての状況に当てはまるとは限りません。実際の導入にあたっては、小規模なテストや調査を行い、自社の環境や目的に適しているかを確認いただくことを強くおすすめします。
表彰式の準備に関する全体像を掴みたい方はこちらをご参考ください→【全体像】表彰式の企画・運営で失敗しない成功要点
表彰制度に関しての全体像をわかりやすく書いた記事はこちら→表彰制度の全体像ガイド

監修・執筆:誉花
誉花は、「{しるし × ものづくり} × {アカデミック × マーケティング}=価値あるしるし」をコンセプトに活動しています。社章やトロフィー、表彰制度が持つ本質的な価値を科学的かつ実務的な視点から探求・整理し、再現性の可能性がある知見として発信しています。私たちは、現場での経験と調査・理論を掛け合わせ、人と組織の中に眠る「誉れ」が花開くための情報を提供しています。
目次
目的とゴールを一文化します
表彰式の準備を始める前に、まず「何のために行うのか」を明確にしておくことが大切です。成功の定義を一文で固定しておくと、準備の方向性がぶれにくくなります。例えば「成果を共有し、一体感を高める」と決めれば、演出や時間配分、会場選びまで一貫性を持たせることができます。
- 成功の定義を一文で固定する(例:「成果を共有し、一体感を高める」)
- 目的が曖昧だと演出や時間配分がブレる
- 目的が曖昧だと予算の配分基準も不明確になる
➡ 詳しくは『表彰の効果からリスクまで徹底解説』で解説しています。」
「成功の定義」は社内の共通認識を作る“軸”です。もし定義が曖昧なまま進めると、誰に重きを置くのか、時間をどこに配分するのかといった判断が場当たり的になり、準備の後戻りが増えてしまいます。さらに、予算をどの部分に重点的に使うべきかが決められず、会場や演出にかける費用のバランスも乱れがちです。
ただし、この定義も万能ではなく、会社の文化や組織の特徴によって最適解は変わります。まずは小さな範囲で試しながら、自分たちに合った「ゴールの言語化方法」を探すことが、最も確実な進め方です。
予算と規模は体験価値から配分します
表彰式の予算は、単純に金額の多寡ではなく「参加者にどのような体験を届けたいか」を基準に考えるのが効果的です。目的に合った配分をすれば、限られた資金でも印象に残る式を実現できます。
- 主要項目:会場、音響・照明、映像、記念品、撮影
- 追加費用:映像制作、オンライン配信、同時通訳、バリアフリー対応(車椅子スペースや字幕表示など)
- 予備費:全体予算の5〜10%を確保(突発的な機材トラブルや人員追加への備え)
私が経験した社内表彰の中でも、企業ごとに大きな違いがありました。ある中堅企業ではコロナ禍の期間中に「会場を持たず、全員がPCからオンラインで参加する形」で低予算の表彰式を行っていました。移動や会場費がかからないためコストを抑えられ、必要最小限の資料と配信環境で十分に成立していました。ただし、コロナ前は会場を借りて実施しており、状況に応じて開催形態を切り替えていたのが特徴です。
一方で、別の企業では「大規模会場を借り、表彰後に宴会も実施し、さらに社内にスタジオを持ち映像編集まで内製できるチーム」が存在していました。そこでは経営層が「盛り上げたい」という強いモチベーションを持ち、文化として根付いていたため、予算も大きく配分されていました。
このように、目的と組織文化によって「小さくリスクを取って試す形」から「大きく投資して一体感を演出する形」まで幅広い選択肢があります。重要なのは、自社にとって何が最も効果的かを見極め、小規模な取り組みから始めつつ、必要に応じてスケールを拡大していくことです。
演出は「目的」と「賞の性格」に合わせて設計します
演出は、何を達成したいか(目的) と その賞が持つ性格(社内運営の実利か、ブランド資産か) によって最適解が変わります。私の経験では、社内表彰では過剰な演出よりも 実績の事実と受賞者コメント を丁寧に伝えるほうが有効だと感じます。一方、アカデミー賞のような「ブランドそのものが価値を持つアワード」では、演出が世界観を支える重要要素として機能しています。
演出の基本方針
- 最優先:成果・表彰者コメント・受賞者コメントの明確化
- 補助的な演出:感動演出は“添え物”。主役は事実と人
- 実務上の注意:オペレーションはシンプルにし、代替案を用意
ミニマル運用
- BGM:場面転換時に限定
- 照明:見やすさ最優先
- 映像:業績紹介や活動記録に限定
- 効果:納得感・安定した進行
ブランディング重視
- 音楽・照明・映像:世界観を一貫設計
- ノミネーション映像/VTR:演出の一部として機能
- 参加体験の設計:ドレスコードや入場演出で特別感を演出
著作権に関する注意(音楽・映像素材)
- 商用利用NGの素材を無断使用しない(市販CDや配信曲をそのまま流していいか確認必須)
- 著作権フリー/ロイヤリティフリーのBGMを利用する(利用規約を確認すること)
- 社内利用であっても不特定多数が参加する場合は注意(“私的利用”の範囲を超える)
- 映像素材や画像も同様に、権利を確認したうえで使用する
- 社内制作物でも写真・動画に第三者の著作物が映り込む場合は配慮が必要
判断のポイント
- 目的との整合性:演出は本当に必要か
- 公平性:過剰演出が評価基準を曇らせないか
- 費用対効果:投入リソースと成果のバランス
- リスク管理:著作権・肖像権をクリアしているか
会場は目的に合わせて場所選びをします
会場を選ぶときは、まず「表彰式をどんな目的で開催するのか」を起点に考えることが大切です。豪華さや慣例にとらわれず、ゴールに合った場所をゼロから検討しましょう。たとえば「社員全員で一体感を高めたい」のであればアクセスの良さや参加しやすさを優先し、「少人数で特別感を演出したい」のであれば小規模でも格式ある会場を選ぶ、といった具合です。
その上で、以下のような実務チェックを行うと失敗が減ります。
- 視界:後方からでも表情が見えるか(スクリーンやカメラ中継で補強可能)
- 音声:マイク数、反響、予備の有無(音の聞き取りやすさは満足度に直結)
- 導線:受付 → 着席 → 登壇 → 撮影 → 退場の流れがスムーズか
- 収容率:会場定員の8割前後が理想(空席が目立たず、過密にもならない)
会場は「目的に合っていて、参加者にとって通いやすい」ことが最も重要です。例えば主要駅から徒歩圏かどうか、遠方からの参加者に配慮できるかなども考慮しましょう。まずは目的を一文で定め、その目的を満たす会場条件を洗い出すことから始めれば、自然と最適な場所が見えてきます。
招待と案内は必須要素を明記します
表彰式の案内は、必要な情報をもれなく伝えることで当日の混乱を防ぎます。逆に言えば、案内が不十分だと参加者が迷い、受付や進行に支障が出やすくなります。特に初めて参加する人や外部ゲストにとっては、細かい情報が安心につながります。
案内文には最低限、以下の要素を必ず盛り込みましょう。
- 日時:開始・終了時刻を明記(集合時刻がある場合は別途記載)
- 会場住所:建物名・階数まで正確に記載(地図リンクを添えると安心)
- 服装:スーツ、ビジネスカジュアルなど、迷わないよう具体的に指定
- 受付方法:受付時間、必要な持ち物(社員証・招待状など)
- 撮影可否:写真や動画撮影の許可範囲(SNS投稿可否も含めると親切)
- 返信期限:出欠確認の締切日を設定し、回答方法(メール・フォームなど)を明記
- 問い合わせ先:担当部署・担当者の連絡先を明示
案内は「相手が迷わず行動できること」が最優先です。特に撮影可否や服装は事前に示さないと、現場で質問が殺到し進行が滞る原因になります。
ただし、どの要素をどの程度詳しく伝えるべきかは組織文化や参加者層によって変わります。最初から完璧を目指すよりも、小さく試しながら必要な情報を取捨選択し、自社に合った案内フォーマットを磨いていくことが確実です。
資料づくりは現場で使うものだけに集中します
表彰式の準備では、資料を増やしすぎるとかえって現場が混乱します。大切なのは「当日、実際に使うもの」に絞り込むことです。特に初めて担当する場合は、不安を減らし失敗を避けるためにナレーション(司会が読む言葉)まで準備することをおすすめします。
基本的に準備しておくべき資料は以下のとおりです。
- 進行表:10分単位で担当者・開始時刻・終了時刻を記載
- 司会台本+ナレーション:開始宣言、式の趣旨説明、注意事項、本編の進行を網羅。慣れない場合は一言一句を書いておくと安心。話慣れている司会者であれば、要点だけの箇条書きでも対応可能。
- 座席表・スライド:座席配置や登壇者紹介をスムーズにするための最低限の資料
➡ 補足強化:「進行表には音響・照明・映像のキュー(cue=合図)を必ず割り当ててください。例えば“拍手が終わったら音楽開始”といった具体的な指示です。これにより、技術担当との連携ミスを防げます。」
ナレーションを用意するかどうかは司会者の経験値によります。即興で話せる人にとっては不要ですが、慣れていない場合や不安がある場合は、書いておくだけで進行がスムーズになり、心理的にも安心です。結果として、場の空気も安定しやすくなります。
資料は必要最小限にとどめつつ、担当者のスキルや状況に合わせて「ナレーションの有無」を調整するのが確実です。
リハーサルは通し・短縮版・冗長確認を行います
表彰式を安定して進めるためには、可能な限りリハーサルを行うことが望ましいです。本番に近い形で確認しておけば、予期しないトラブルや段取りの不安を大きく減らせます。特に初めて担当する場合は、事前に練習しておくことで安心感が格段に高まります。
リハーサルの方法は一つではなく、以下のように分けて行うと効果的です。
- 通しリハーサル:開始から終了まで全工程を再現。時間配分や流れを確認でき、司会者や運営側の安心につながる。
- 短縮版リハーサル:重要な場面だけを抜粋して短時間で確認。式が押したときに「どこを省けるか」を事前に把握できる。
- 冗長確認(予備確認):マイク・映像機材・ケーブルなど予備の使用を実際に試し、トラブル時の切り替え手順を確認しておく。
リハーサルを行うことで、関わる人全員が自分の動きを理解し、不安を減らした状態で当日を迎えられます。とはいえ、時間や人員の制約で全てを行うのが難しい場合もあります。その場合は、小規模でもよいので通しや短縮版を一度試し、余力があれば冗長確認を加えるなど、できる範囲で進めていくのが現実的です。
準備工程の簡易チェックリスト(WBS対応)
表彰式は単独で行うことは少なく、会社全体のイベント(キックオフ、周年行事、納会など)と併せて実施することが一般的です。そのため、準備は表彰式単体ではなく「全体イベントの流れの中でどう位置づけるか」を意識して進める必要があります。
準備を計画的に進めるには、「いつまでに何を終わらせるか」を区切って整理するのが有効です。ここではWBS(Work Breakdown Structure=作業を分解して順序立てる管理方法)の考え方を取り入れ、期日ベースで一例を示します。
- T-90〜45(3〜1.5か月前):全体イベントの日程・会場確定、表彰式の枠組み決定、予算の大枠設定
- T-30(1か月前):招待状や全体案内に表彰式の内容を組み込み、台本初稿、BGM・映像ラフ確認
- T-14(2週間前):座席配置案、撮影同意回収、通しリハーサル案内(全体イベントの進行とあわせて調整)
- T-7(1週間前):座席案最終確定、進行表・スライド最終版、全体イベントリハーサルとの連動確認
- T-1(前日):通しリハーサル、機材の冗長確認(予備機材テスト)、代替進行の最終確認
表彰式の準備は単独では完結せず、全体イベントの進行管理や演出と重なる部分が多くなります。そのため、他部署や運営チームとの連携が重要です。あくまで目安として「主要タスクはT-30(1か月前)までに揃えておく」とすると整理しやすいですが、規模や文化に応じて柔軟に調整することが大切です。
FAQ(よくある質問)
Q1. 表彰式の準備はどれくらい前から始めればよいですか?
A. 準備開始の時期は、規模や開催形式によって大きく変わります。小規模で社内会議室を使う程度なら1か月前でも対応できますが、外部会場を押さえる場合は2〜3か月前から予約するケースもあります。あくまで目安として、会場の調査等は早めに初めて「主要なタスクはT-30(1か月前)までに揃えておく」と考えると整理しやすいですが、無理のないスケジュールを自社事情に合わせて調整するのが確実です。
Q2. 会場を借りずにオンライン開催でも問題ありませんか?
A. 可能です。実際にコロナ禍では全員がPCから参加する形で低予算で実施した企業もあります。目的に合っていて参加者に伝われば、オンラインでも十分成立します。
Q3. 招待状に必ず書くべき内容は何ですか?
A. 日時、会場住所(または配信URL)、服装、受付方法、撮影可否、返信期限、問い合わせ先は最低限必要です。特に服装や撮影可否は、事前に明示しておくと当日の混乱を防げます。
Q4. 司会台本は必要ですか?
A. 話し慣れている司会者なら要点だけで進行できますが、初めて担当する場合や不安がある場合はナレーション(読む原稿)まで書いておくことを推奨します。心理的な安心材料になり、当日の進行もスムーズになります。
Q5. リハーサルはどの程度やればよいですか?
A. 可能な範囲で行えば十分です。本番を想定した「通しリハーサル」が理想ですが、時間がなければ「短縮版」や「機材の冗長確認」だけでも効果があります。
Q6. 予算はどのように決めればよいですか?
A. まず「表彰式の目的」を明確にし、それに沿って配分を決めます。小規模にリスクを抑える方法もあれば、大規模に投資して盛り上げる方法もあり、最適解は組織文化や経営の意向によって異なります。
まとめ
表彰式の準備は、後戻りを減らすために「やる順番」を意識して進めることが大切です。まずは目的を一文で定め、そのゴールに合わせて予算や会場を決め、招待案内や資料を整えていきましょう。そして可能な範囲でリハーサルを行い、当日の不安を取り除いておくことが成功への近道です。
この記事で紹介したチェックリストやポイントを押さえておけば、初めての担当者でも全体の流れを見通しやすくなります。ただし、ここで示した内容はあくまで基本形であり、すべての組織にそのまま適用できるわけではありません。
重要なのは、目的と自社の文化に沿って優先順位をつけ、小さく試しながら最適な方法を模索していくことです。その積み重ねが、組織に根づく表彰文化を育て、より良い体験をつくり出す力になります。